スワイプでご覧ください

産山村ぽーたるにもどる »

有馬ヶ淵の大蛇

むかし九州の筑後国を

おさめていた有馬豊氏

という殿様に女の子が生まれ

美しい娘に育った。

縁談も次々にあったが

姫は一向もその気に

ならなかった。

母御は非常に心配して

身辺に注意していた。

毎朝踏み台が

湿っているのに気がづき

不審に思っていた母御は

ある日、

昼寝をしている娘の姿を

障子のすきまから

覗き見てしまった。

そこには大きな

とぐろを巻いている

大蛇の姿があった。

母御は夢ではないかと驚き

それがもとで熱病になり

一室に伏す身となった。

姫は自分の姿を

知られたことを悟り

母御の枕辺に手をついて

告白した。

「私はお母さんから

立派な娘として

生を受けましたが

私の正体は蛇です。

もはや見破られた以上、

一刻も家に

居ることはできません。

阿蘇の山奥に

清らかな水の湧く

淵があります。

私はその淵の主(ぬし)に

なることになっています。

どうかお許し下さい。」

と涙ながらに因果を物語った。

姫はすぐに出発せねば

ならぬというので

お気に入りの

側女四人をつれて

家人に別れを告げ

阿蘇に向かった

しかし、

日が経つにつれ

両親は娘が恋しくなり

野山を越えて淵に

会いに行った。

淵に着くと両親は

いま一度、娘の姿で

会ってくれと頼んだ。

しばらくして水面に

人の姿の娘が晴れ着姿で現れ

にっこり笑って

水中に消えた。

両親は時間の短さに嘆き、

もう一度出てきておくれと

頼んだ。

すると空はにわかにかき曇り

風が吹き荒れ始め

水面はしぶきを立て

娘は大蛇の姿で現れた。

両親に別れを告げ

大蛇は姿を消した。

その場所が現在の

産山村の有馬ヶ淵である。

淵には姫が主の「本淵」

四人の側女のそれぞれが

「長渕」「丸渕」

「ハンド淵」「蛇淵」の

主となっているといわれている。

干ばつ年には

大分県を含む川の下流の

住民が雨乞い祈願をした

ということである。

いまは本淵のみがわずかな

面影を残すばかりである。