花の温泉館 産の湯の巻
この建物、実はすごい。
光と湯が織りなす別世界。
御湯船温泉とは別にもうひとつ、産山で人気なのがこちら、「花の温泉館 産の湯」である。御湯船温泉が切り傷に良いと言われる湯治向けの湯なら、こちらは美容に良い「美人の湯」。肌がツルツルになると評判だ。昭和を感じる館内、靴を脱いで回廊の奥の湯殿へ。廊下の奥に設けられた窓から、太陽が眩しい。方位、日光を計算して作られているのではないか、と深読みしてしまうくらい神々しい意匠設計だ。のれんに書かれた「産の湯」の文字。阿蘇大神の御嫡孫生誕、産湯伝説を実感できるような雰囲気が館内にはある。


そもそも、どうしてこれほどまでに長い建物になっているのか。お風呂へ向かうアプローチも、真正面の強烈な太陽光が眩しく、歩いているとバージンロードを進むような厳粛な気持ちになってくる。単なる風呂なのに。しかも浴室、とにかく天井が高い。窓はほぼ全面。燦々と陽が降り注いでいるのだ。聞けばこちら、もともと、100mにもなるガラス温室が隣接する植物園というコンセプトとのこと。温室の長さに合わせた巧みなデザインが、この独特の雰囲気を作り上げている。花の温泉館という名も、ここから来ていたのかと気づく。

内湯は円形のローマ風呂のようなハーブ湯と、石で組まれた広めの風呂。入口のそばにはサウナと水風呂、外には露天風呂もある。窓が大きい分、照明も光量を抑え、夜になるとさらに秘湯感が増すに違いない。受付の女性は、この道20年の大ベテラン。馴染みの客と話す姿がとてもよく、愛らしい感じがするのは、温泉に並々ならぬ愛着を持っているから。20年間、彼女は花の温泉に多くの人を迎え入れ、案内してきた。地震でも決して枯れることがない、咲き続ける花のような湯。笑顔の奥には、そんな自信が窺えた。時間が逆に戻っていくような感覚、別世界に降り立つようなノスタルジーが花の温泉館にはある。


記者余談 :
暖かい季節になると温泉の入口前のフロアには、たくさんの野菜や物産品が並び、地元のものを買って帰れます。
施設に併設された個人食堂の「ふれあい食堂」も14席とは思えないほど開放感があり、ワンコインランチや名水コーヒー(100円!)もおすすめです。