産山社子屋

農林業

私ども人間が生きるために欠かせない3つの要素と言えば衣、食、住。その全てに関わっている農林業。
地形や気候に大きな影響を受けるこの産業は、自然との関わりも深く、まさに人と自然とをつなぐ架け橋なのでございます。

阿蘇産山といえば、視界にこれでもかと広がる草原のパノラマと、その上でのんびりと草を食む放牧牛が印象的でございます。
そんな風景をひと目ご覧になれば、「なるほどこの環境で育った牛の肉はさぞかし旨かろう」と思われたことでしょう。
しかしそれ、ちょいと違うんですな。
え、何がって? まぁまぁ、これからゆっくりとご説明しますから。

第5回産山社子屋【農林業】

あか牛農家へファームトリップ試食付き!

日時:2017年1月28日 15:00~17:00
場所:産山 農家レストラン 山の里
講師:井 俊介さん

さて今回は、うぶやま自由七科【農林業】の巻。
題して「あか牛農家へファームトリップ」。なんと試食付きでございます。

浅草の老舗すき焼店の大将が、「今後、ウチじゃ霜降りの肉は出さねぇ」と宣言したことがちょっと話題になっているようで。
これまでサシの入った霜降りの牛肉が旨くて高級だともてはやされてきたンですが、果たしてホントにそうなのかいと一石を投じたわけですな。
サシが入っていれば高級な肉。高く売れるってんで、畜産農家さんも躍起になってサシを入れようとする。これまた不自然な循環になってやしませんかと。
そう言われてみると、そもそもサシってのは脂肪で、脂肪ってのは無味無臭。
……それじゃ、牛肉の旨味ってのは、どこにあるんでしょうかね?

まずは今回の子牛……、いや講師の井 俊介さんから、畜産についてのミニ講座。
私たちにとって身近な存在である牛ですが、知らないことばかりだったことを思い知らされます。
あか牛と黒毛和牛の違い、そして和牛と国産牛もまた別のものであること。
畜産農家には2種類あって、牛を繁殖する繁殖農家と、市場で子牛を買って、それを育てる肥育農家にわかれていること。
スケッチブックを使った、お子様の参加者にもわかりやすい説明。皆さん、真剣な表情で聞き入っています。

その後はまだ雪の残る牧野へ出かけます。普段は入ることのできない牧野からは、阿蘇五岳の涅槃像も綺麗に見えて、大人も子供も大はしゃぎ。
こんなに気持ちのいい場所で、のびのびと育つから美味しいお肉になるんですね。
「いや、それは違うんですよ」と俊介さん。放牧しているのはほとんどが母牛で、お肉になる牛は牛舎にいるんだそうです。

そんなわけで牛舎へ移動。ここでもたくさんの牛たちが牧草を食べています。
手入れの行き届いた清潔な牛舎でくつろいでいる牛たちは皆、毛の色艶もよく、目もイキイキと輝いています。
「かわいい!」と近寄って間近に見ると意外と大きくて怯みます。怯みつつも餌やり体験。
ちょっと怖いけど可愛い牛たちは食欲旺盛。見ていて気持ちがいいくらい、とにかくよく食べます。

そして本日のクライマックス。お待ちかねの試食会です。
「あか牛を美味しく味わうには、シンプルな焼肉が一番」という俊介さん。農家レストラン「山の里」へ場所を移します。産山の豊かな自然と、そして農業に携わる人々に支えられていることを実感した一日の締めくくりに頂くあか牛料理はまた格別。参加者のみなさんの「いただきます」「ごちそうさま」の言葉に込める気持ちは、今日から少し変わるかもしれません。

INTERVIEW講師インタビュー

俊介さんは以前、新聞社にお勤めだったそうですが、牧畜のお仕事を始めたのは?

産山に来て丸7年になります。この牧場は妻の実家なんです。 私は熊本市内の、ごく一般的なサラリーマン家庭で育ったので、結婚するまでは牧畜の仕事にはまったく縁がありませんでした。 結婚前からここへはちょくちょく遊びに来ていて、あか牛をご馳走になったりして。 自分で育てた牛を、お店でお客さんに提供するという仕事にすごく魅力を感じました。やりがいもありそうだなと。 後継者がいないというのは聞いていたし、当時の私は会社勤めで、年齢は29歳。今を逃したらこのまま転職することもないだろうなと思って決断しました。

どういう部分に面白さ、やりがいを感じますか?

以前、この牧場では繁殖を行わず、肥育だけをやっていました。 私は牛のことを何も知らない状態でここへ来たので、繁殖のところからやってみたいと思ったんです。 それで何もわからないまま親牛を置いて、獣医さんと一緒に種付けをして、やがて子牛が生まれて、これでようやく肥育のステージです。 種付けから出荷まで3年かかるんですが、それを初めてやり遂げた時ですね。自分が種付けから手掛けた牛が育って出荷されていった時はやはり、達成感がありました。

逆に辛いのはどういう時ですか?

出産時に子牛が死んでしまった時とか……、生まれた後も油断はできません。体調を崩して死んでしまうこともあります。そういう事故が起こってしまった時ですね。すごく凹みます。 子牛のわずかな変化にもちゃんと気づいてあげないといけない。自分の注意力ひとつで命が左右されるので。

産山村での牧畜は、他とどう違うのですか?

産山には広大な敷地があって畜産農家もそう多くない。だから場所を贅沢に使えるんです。牧草も豊富で好きなだけ使える。 サシがたくさん入っているような黒毛和牛は、草は少しだけで、主に穀物が多く含まれた農耕飼料と言われるものを与えています。 農耕飼料をたくさん与えれば、身体は大きくなりサシも入るのですが、肉本来の味とか香りっていうのは、牧草の成分が由来になっているんです。 うちの牧場では、牧草を食べたいだけ食べさせています。本当に贅沢な環境だと思います。

放牧牛はずっと外にいるんですか?

そうです。朝も夜も、雨の日も風の日もずっと牧野にいます。 牧野には山があって谷がある。昼間は日当たりのいい場所へ行き、夜は谷に隠れて風をしのいだり。 牛は自分でちゃんといい場所を探して、快適に過ごしているんですよ。

牛の耳についている札って?

黄色い札には国が管理している個体識別番号が書かれています。これは人間でいう戸籍のようなもの。 この番号がないと取引もできない。と畜場でも受け付けてもらえない重要なものなんです。 白い札には牛の名前が書いてあります。

牛に名前をつけるんですか?

もちろん。うちで生まれた子牛には、うちで名前をつけます。オスには漢字、メスにはひらがなの名前。 市場で買ってきた牛にも、繁殖農家さんがつけた名前がちゃんとありますよ。

名前をつけて可愛がっている牛を出荷するのは寂しくないですか?

そうですね(笑)でも、うちはお肉屋さんもやっているので、やはり「いい商品」として自信を持って送り出してます。

今後の展望は?

種付けから出荷まで、一貫してうちの牧場で行う比率を上げていきたいので、今は親牛の数を増やしているところです。 これから春になって放牧ができるようになったら、親子で一緒に放牧させたいなと思っています。親牛と一緒に過ごすことで、子牛が元気に育ちます。 通りすがりの観光客の人が、車を停めて写真を撮ってらっしゃる姿をよく見かけますし。きっと他では見られない風景づくりにもつながると思います。

井 俊介さん
36歳 熊本県合志市出身。
熊本日日新聞社勤務を経て、妻の実家がある産山村に移住。
自家牧場で育てたあか牛を農家レストラン「山の里」で提供している。
産山村 - 神様だってうまれちゃう!? 今日も何かが産まれている。
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